動物のX線撮影で、なぜ用手保定者の被ばくが問題になるのか?


― 眼・手指の被ばくと放射線防護 ―

動物のX線撮影では、体動を抑えて診断に必要な画像を得るために、獣医師や動物ケアスタッフなどが動物を直接支える「用手保定」が行われます

しかし、X線照射中に動物の近くにいるということは、保定者自身も散乱X線を受ける可能性があることを意味します。

特に注意したいのが、眼の水晶体と手指です。

なぜ人の医療とは状況が違うのか

人の一般X線撮影では、通常、撮影時に医療従事者は患者から離れ、操作室などから照射を行います。

一方、動物では、撮影中の体動を完全にコントロールすることが難しく、動物種や状態、撮影部位によっては、人が撮影室内に残って保定せざるを得ない場合があります。

そのため、獣医療の放射線防護では、撮影する動物だけでなく、撮影時に動物の近くにいる人の職業被ばくを考える必要があります。

眼の水晶体はどのくらい被ばくする?

私たちは、動物園・水族館におけるX線撮影を想定したモックアップ実験で、用手保定者の眼の水晶体線量を評価しました。

防護眼鏡を使用しない場合、眼の水晶体線量は撮影条件によって増加し、例えば90 kVp・半切条件では、右眼で 35.6 μSv、左眼で 35.9 μSv でした。

一方、防護眼鏡を装着すると、同条件で右眼は 12.0 μSv、左眼は 13.4 μSv まで低減しました。

防護眼鏡による線量低減率は、条件に応じておよそ 54~66% でした。

つまり、防護眼鏡は眼の水晶体被ばくを減らす有効な手段の一つと考えられます。

手指は「照射野に入るかどうか」で大きく変わる

さらに大きな違いがみられたのが手指です。

60 kVpでは、手指を照射野内に置き、防護手袋を使用しなかった場合の線量は 518 μSv でした。

90 kVpでは、同じ条件で 1,275 μSv に達しました。

一方、手指を照射野の外に置いた場合、防護手袋なしでも、

  • 60 kVp:7 μSv
  • 90 kVp:16 μSv

まで低下しました。

これは、手指被ばくを考えるうえで非常に重要な結果です。

防護手袋より先に考えるべきこと

防護手袋にも明確な線量低減効果がありました。

照射野内では、

  • 60 kVp:518 μSv → 21 μSv
  • 90 kVp:1,275 μSv → 90 μSv

ここで重要なのは、「防護手袋を着ければ照射野内に手を入れてもよい」という意味ではないことです。

実験では、手袋を着用して照射野内に手を置く場合よりも、そもそも手を照射野の外に出すこと自体が極めて有効であることが示されました。

「手を照射野に入れない撮影・保定方法にできないか」を考えることが基本です。

撮影条件によっても被ばくは変わる

被ばく線量は、「撮影回数」だけで決まるわけではありません。

今回の実験でも、管電圧が60 kVpから90 kVpに上がることで、眼の水晶体線量や手指線量は増加しました。

また、照射野サイズによっても水晶体線量は変化しました。

撮影条件によっても被ばくは変わる

  • 管電圧
  • 照射野サイズ
  • 保定者の位置
  • 手指の位置
  • 防護具の使用

個別ではなく撮影手順全体として最適化することが重要です。

用手保定が必要な場合に考えたいこと

放射線防護の観点からは、X線照射中に人が動物を直接保定しない方法が望まれます。

保定具、鎮静・麻酔、撮影方法の工夫などによって、用手保定そのものを減らせる可能性があります。

一方で、すべての動物や撮影で用手保定を完全になくすことが現実的とは限りません。

そのため、用手保定が必要な場合でも、対策を組み合わせることが重要です。

用手保定が必要な場合に考えたいこと

  • 手指を照射野から外す
  • X線管や動物から可能な範囲で距離をとる
  • 照射野を必要最小限にする
  • 適切な防護具を使用する
  • 個人線量計を適切に装着する
  • 撮影条件や保定方法を見直す

「測る」ことから改善へ

獣医療における放射線安全管理では、被ばく線量を測定するだけで終わらせないことが重要です。

どのような撮影で、誰が、どの位置で、どの程度被ばくしているのかを把握し、その結果を撮影方法や防護方法の改善につなげる必要があります。

VetRad Labでは、獣医療における職業被ばくを「測る」だけでなく、課題を「理解し」、防護を「改善し」、安全管理を現場に「定着させる」ための研究に取り組んでいます。

関連研究

永元啓介, 髙橋能理子, 山本愛菜, 徳本彩妃, 二井綾子, 香崎正宙, 岡﨑龍史.
動物園・水族館における獣医療従事者の眼の水晶体および手指被ばく線量評価と防護対策の検証.
日本野生動物医学会誌. 2026;31(2).


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