獣医療における放射線防護というと、防護エプロンや防護手袋、防護眼鏡などの「防護具」を思い浮かべるかもしれません。
しかし、Radiation Protection(放射線防護)は、防護具を着用することだけではありません。
・そもそも人がX線の近くにいる必要があるのか。
・どこに立つのか。
・どのくらい距離をとれるのか。
・手指を照射野から外せるのか。
・照射野や撮影条件を適切に設定できているのか。
こうした撮影手順全体を見直し、診療に必要な画像を得ながら、不要な職業被ばくをできる限り低減することがRadiation Protectionの重要な役割です。
VetRad Labでは、実際の獣医療現場で実践できる放射線防護を研究しています。
「時間・距離・遮へい」だけではない
放射線防護の基本として、「時間・距離・遮へい」がよく知られています。
・X線を使用する時間を必要最小限にする。
・X線管や散乱線源となる動物から可能な範囲で距離をとる。
・必要に応じて適切な防護具や遮へいを使用する。
これらは獣医療でも重要な原則です。
しかし、動物のX線撮影では、用手保定という特徴があります。
動物自身に「動かないでください」と指示することはできません。そのため、動物種や状態、撮影部位によっては、人が動物の近くで撮影を補助する場面があります。
だからこそ獣医療では、一般的な放射線防護の原則を、実際の撮影や保定の方法にどう落とし込むかが重要になります。
最初に考えたいのは「人がそこにいる必要があるか」
用手保定による被ばくを減らす最も基本的な考え方は、X線照射中に人が動物の近くにいなくても撮影できる方法を検討することです。
保定具の活用、砂袋・鎮静・麻酔、撮影方法の工夫などによって、用手保定そのものを減らせる可能性があります。
もちろん、すべての動物や撮影で用手保定をなくせるとは限りません。
その場合には、次に「どのように保定すれば、より少ない被ばくで撮影できるか」を考えます。
距離と立ち位置を変える
X線撮影時に作業者が受ける主な放射線の一つが、動物などから生じる散乱X線です。
そのため、可能な範囲で距離をとることは重要な防護方法になります。
ただし、獣医療では単純に「離れてください」では実践できない場合があります。
どこを支える必要があるのか、どの方向から支えるのか、誰がどこに立つのか。
VetRad Labでは、実際の作業位置と線量を組み合わせて評価することで、現場で実践可能な立ち位置や保定方法を検討します。
手指を一次X線の照射野に入れない
特に重要なのが手指です。
手指が一次X線の照射野内に入ると、照射野外にある場合と比較して線量が大きくなることがあります。
防護手袋には線量を低減する効果がありますが、
「防護手袋を着けているから、照射野内に手を入れてよい」
ということではありません。
まず検討すべきなのは、手指を照射野に入れない撮影・保定方法にできないかということです。
防護具は重要ですが、防護具だけに依存しないこともRadiation Protectionの重要な考え方です。
防護具を適切に使う
用手保定などによって撮影室内にいる必要がある場合には、防護エプロン、防護眼鏡など、作業や被ばく部位に応じた防護具の使用を検討します。
VetRad Labの研究でも、防護眼鏡によって眼の水晶体線量が低減することを確認しています。
重要なのは、単に「防護具を持っている」ことではなく、想定される被ばくに応じた防護具を選び、必要な場面で適切に使用できることです。
撮影条件・照射野も放射線防護の一部
職業被ばくは、保定者の行動だけで決まるものではありません。
照射野の大きさ、撮影条件、撮影回数なども、周囲の散乱線や作業者の被ばくに関係します。
したがって、
保定者だけに「気をつけてもらう」のではなく、撮影手順全体を最適化する。
これが重要です。
診断に必要な画像の質を確保しながら、不要な照射や被ばくをできる限り減らす。そのバランスを現場ごとに考える必要があります。
ALARAを「現場でできること」にする
放射線防護では、ALARA(As Low As Reasonably Achievable)という考え方があります。
しかし、ALARAを知っているだけでは、現場の被ばくは減りません。
どこにリスクがあるのかを測る。 なぜ被ばくしているのかを理解する。 実践可能な防護方法を考える。 実際の撮影手順として定着させる。
VetRad Labが目指しているのは、放射線防護の原則を説明するだけではなく、それぞれの獣医療現場で実践できる形に変えていくことです。
