獣医療では、X線撮影時に獣医師や愛玩動物看護師、飼育員などが動物の近くで作業したり、用手保定を行ったりすることがあります。
こうした放射線業務において、「どのくらい被ばくしているのか」を客観的に把握するために重要なのが、Occupational Dosimetry(職業被ばく線量評価)です。
VetRad Labでは、単に線量を測定するだけではなく、誰が、どの作業で、身体のどこに、どの程度被ばくしているのかを明らかにし、その結果を放射線防護や安全管理の改善につなげる研究に取り組んでいます。
なぜ獣医療で線量評価が必要なのか
獣医療のX線撮影には、人医療とは異なる特徴があります。
動物自身に撮影姿勢を指示することが難しいため、撮影時に獣医師が近くで介助したり、場合によっては用手保定が必要になったりします。
そのため、体幹部だけでなく、眼の水晶体や手指などの局所的な被ばくについても考える必要があります。
一方で、「X線撮影に立ち会った」という事実だけでは、実際の被ばく線量は分かりません。撮影条件、X線管や動物との位置関係、距離、防護具、保定方法などによって、受ける線量は大きく変わる可能性があります。
だからこそ、まず実際の現場で測ることが重要です。
何を測るのか
VetRad Labでは、研究目的や撮影状況に応じて、個人線量計などを用いた線量評価を行っています。
対象となるのは、例えば、体幹部被ばく、眼の水晶体被ばく、手指被ばくです。
特に手指では、単に「撮影に参加したか」だけではなく、手がどこにあったのかが重要になります。
こうした作業単位・部位単位の測定によって、施設全体の平均値だけでは見えにくいリスクを捉えることができます。
研究例:手指の「位置」まで測る
獣医療における職業被ばくを評価する際、体幹部の個人線量だけでは十分に把握できない場合があります。
特に動物の用手保定では、手指がX線照射野の近くに位置することがあり、局所的な被ばくを評価することが重要です。
VetRad Labでは、実際の獣医療で想定される撮影条件を用いたファントム実験により、手指の位置による線量の違いを検討しています。
今回の測定では、手指が照射野内にある場合は116~232 μSv/撮影、照射野外では4~16 μSv/撮影でした。

特に小型鳥類の近接撮影(FFD:60 cm)では、照射野内の手指線量は232 μSv/撮影となり、今回検討した他の撮影条件と比較して約2倍高い値を示しました。近接撮影では撮影対象やX線管に手指が近づく場面も想定されるため、手指の位置を意識した防護が重要になります。
この結果が示しているのは、防護具を着用しているかどうかだけではなく、手指を一次X線の照射野に入れないことが極めて重要だということです。
Occupational Dosimetryでは、単に個人線量を測定するだけではありません。どの作業で、どの位置にいて、どの身体部位に被ばくが生じているのかを明らかにします。
そして、得られた線量データを、立ち位置や保定方法、手指位置の見直しなど、具体的な防護行動の改善につなげていきます。
測ることがゴールではない
線量測定の目的は、「○○μSvだった」と数字を示すことだけではありません。
重要なのは、その結果から、原因や対策を考えることです。
なぜを考える
なぜその線量になったのか。
どうすれば低減できるのか。
その方法を日常業務の中で継続できるのか。
距離をとる、立ち位置を変える、手を照射野から外す、防護具を適切に使用する、保定方法を見直す――。線量を可視化することで、具体的な改善策を検討できるようになります。
測る → 理解する → 改善する → 定着させる
VetRad Labでは、Occupational Dosimetryを放射線安全の出発点の一つと考えています。
測る → 理解する → 改善する → 定着させる
線量を測定して終わるのではなく、得られたデータを放射線防護、教育、行動変容、安全管理の仕組みへつなげる。
そして、現場自身が継続的に安全を評価し、改善できる環境をつくることを目指しています。
